「紅玉は大事な家族だよ?」

 蒼子はにっこりと愛嬌たっぷりに微笑んで見せた。

「……」

 鳳は眉根を寄せて訝しむ。

 やっぱり、無理? この愛嬌では誤魔化せないか……?

 蒼子は内心では焦っていたが訝しむ鳳に愛嬌をぶつけ続けた。

「「……」」

 無言のまま愛嬌をぶつけ続けることしばらく、大きな溜め息をついた鳳が白旗を上げた。

「ふん……そうか。家族か」

 とりあえず納得してくれたようで蒼子も安堵する。

「蒼子ちゃーん、入って良いかしら?」

 扉の向こう側から柘榴の声がする。

「良いよ、入って」
「入るわねー」

 そう言って入室してきた柘榴の手には盆と着替えがある。

「お水持って来たわ。身体も拭いて着替えちゃいましょ」

 言われてみれば背中が汗でびっしょりだ。

「ありがとう。汗かいちゃった」

 さすが、気が利く柘榴だ。

「汗も拭きましょ。風邪引いちゃうわ」

 手拭いを手にした柘榴が意気揚々と言うが、あることに気付いて手を止める。

「さぁ、鳳様、女性が着替えるのですから出て下さいな」
「……女性?」

 鳳は疑問符を浮かべてまじまじと蒼子を見つめた。
 これが女性と言えるのか? と顔に書いてある。

「別に構わないだろう。私がいても」
「良くありませんよ。女性の着替えを除くおつもりですか?」 
「そうです、出って行って下さい」

 蒼子は苛立ちを込めて鳳に訴える。

「ついこの前まで乳をしゃぶっていたような風体で何が女性だ」

 ぷつんっと何かが切れるような音がした。
 蒼子は寝台から飛び降りてそのまま勢いを殺す事無く、鳳の脛を蹴り上げた。

「うっ! 蒼子、貴様何をするっ」
「小さかろうが大きかろうが、私は立派な女性です」

 脛を擦る鳳に蒼子は冷たく言い放つ。

「全く、騒がしいですね」

 紅玉の部屋を整え終えた柊が戻り、顔を出した。

「ほら、着替えると言っているのですから、大人しく退室して下さい。着替えに何人も必要ありません」

「おい、この家の主は私だぞ。どこに居たって私の自由だ」
「いくら貴方でも女性の着替えを除く自由はありません!」

 柊にビシッと指摘され、鳳はたじろぐ。

 鳳を見る柊の目が炊事場に虫が現れた時の目に酷似していたからだ。
そのまま引き摺られるように鳳は退出して行く。

「……柊様ス・テ・キ」

 柘榴が瞳をキラキラとさせて、蒼子も大きく頷いた。

「鳳様も椋も柊には敵わないのよね」

 蒼子と柘榴はしみじみと頷き合った。