「本当は、俺にしとけよって言いたいけど」

 ……けど?

「おまえが選んだ人生だ。 どうやら俺には、勝ち目はないみたいだな」

 境界線を越えようとしたのは、私。越してしまったのも、私。
 でも……私たちの関係は、その境界線を越えてはならない。 先生に本気で恋して、本気で悩んだあの時から、もう六年。

 私は大人になった。だから自分の生き方は、自分で決めるの。 誰と生きるか、どんな風に生きるか。
 それを決めていくのは、紛れもなく私自身。

 だから私は、決めるの。 自分が進んでいく未来を。

「……先生、ありがとう」

「え?」

「私、先生のこと本当に大好きだった。……先生に恋して、良かった。 今の私があるのは、先生のおかげだから」

 私は先生との出会いに感謝してる。先生と出会えて、本当に良かった。

「花霞……」

 先生のその切なそうな表情を、私はあえて見ないふりをする。

「先生、幸せになってね。……私も、とびっきり幸せになるから」

「……ああ、幸せになれ」

 私と先生の恋は、これでようやく終わった。

 六年越しの片思いが、両思いだって知ってびっくりもしたけど、これで良かったんだと思う。