「……なあ、花霞」

 聖は私に一歩、近寄ってくる。

「な、に……?」

「おまえ……好きな男が、いるんだろ?」

 聖の表情は、その瞳の奥は、少しだけ悲しそうにも見えた。

「……え?」

「おまえのこと、見てれば分かる。 おまえには、好きな男がいるってことくらい」

 聖は……聖は、私が先生のことを好きなことを知っているんだ。

「……どう、して?」

「滅多に泣かないおまえが泣くなんて……そういうこと、だろ?」

 聖は本当に、私をよく見ている。

「ごめん、聖……」

「謝るなって。……おまえの悲しそうな顔、俺は見たくないだけだ」

 どうして私は、聖を好きになれないんだろう。……どうしてこんなにも思ってくれる人が目の前にいるのに、私は聖を好きになれないんだろう。
 こんなに辛い思いするくらいなら、聖のことを好きになりたいのに。

「おまえの好きな男って……昔の担任の教師、だろ?」

「……え?」

 知ってた……の? 聖、知ってたの?

「前に、そいつと話してる所見たんだ。……おまえ、その教師とずいぶん嬉しそうに話してたよな」

「……知ってたんだね、聖」

 私はそんなことも知らず、聖のことを利用しようとしたんだ……。