そっか……。私、嫉妬してるんだ。
 だから先生に、こんな訳の分からない感情を抱いてたんだ……。

「ねえ、先生……」

 私は、思わず先生の手を掴んでしまった。

「……花霞? どうした?」

「先生……恋人はいるの?」

 私……先生のこと、まだ好きだったのかもしれない。
 六年経った今でも、先生のことを……。心のどこかで想っていたんだ。

「恋人も、いないよ」

「……そうなんだ。いないんだ」

「なんだ。いなくて残念か?」

 冗談交じりに話す先生に、私は「違うよ。……安心した」と答えた。

「……え?」

 先生は私を不思議そうな目で見つめる。

「先生、恋人いないんだ。……安心しちゃった、なんか」

「安心、したって……?」

 ダメだよ、私……。これ以上は、言ってはいけない。
 言ったら、先生を困らせるだけだから。……だから、言いたくない。
 言いたくなんてない、のに……。

「先生は……私のこと、どう思ってる?」

 私は絶対に越えてはならない境界線を……越えようとしてしまっている。

「どう……って?」

 こんなのはダメだって分かってるのに。 だって私には、聖がいるのに……。
 聖が、私を好きになってくれてるのに……。