「まさか、忘れてたとか言わないよな?」

 その言葉を聞いて、ビクッ!となった。

「……ま、まさか! 忙しくて、なかなか考える暇がなかっただけよ」

 本当は……先生のことばかり考えていた、なんて言えない。

「そうか? ならいいけど」

「……ごめん、聖」

 謝る私に、聖は「それは、何に対するごめん?」と見つめてくる。

「……何って」

 返事をすることを約束したけど、まだなんにも考えられないことだ。

「返事は急がない。ゆっくりゆっくり考えてから、答えてほしい」

 真剣な眼差しを向けられ、私は困惑する。 

 聖となら、私は幸せになれる? 聖の気持ちは、嬉しいと思う。
 でも……でも……。

「……分かってる。ちゃんと、考えるから」

「ああ。 じゃあ俺、行くわ。……気をつけて帰れよ」

「ありがとう」

 聖の背中を見送った私は、そのまま病院を出る。

 私……聖のこと、好きになれる? 聖だったら、私のことなんでも知ってるし、相談にも乗ってくれる。
 すごく私を、愛してくれるかもしれない。でも、そんな聖と付き合うことの決断がまだ出来ないのは……。

「……先生」

 きっと私の中に、先生がいるからかもしれないーーー。