「心配かけて、すまない」
綾浜先生は申し訳なさそうな表情をする。
「いえ、謝らないでください。 先生が元気になってくれたら、私……」
私……何? 今私、なんて言おうとした?
あれ……? 私、なんか変だった……?
なんとなく、自分でそう感じる。 なぜなのかは、分からないけど。
「私……なんだよ?」
「いえ!……なんでも、ないです。気にしないでください」
私、どうかしてる? 先生に今、何かを言おうとして、躊躇った……?
「なあ、花霞。……いや、ここでは志倉って呼んだ方がいいか」
志倉……。名前ではなく名字で呼ばれたら、なんとなく悲しい気がした。
それは、どうしてなのだろう……。
「あの、綾浜先生……」
「ん? どうした、志倉?」
志倉って、呼ばないで……。そう言いたい気持ちがあるのに、それを伝えることが出来ない。
「……いえ。お身体、大事にしてください」
「ああ、ありがとう」
違うよ。私が言いたいのは、こんなことじゃない。
そんなことを、言いたいんじゃない……。
「じゃあ、俺行くな? じゃあな」
先生……。行かないで!
咄嗟に、そう思ってしまった。



