全ての買い物を終えて家に帰り車から荷物を運び入れると、全身に滝の様な汗をかいていた。
「……?」
玄関先に義母のものではない女性ものの靴が置いてある。
冷蔵庫のあるキッチンへ行くには、嫌でもリビングを通らなくてはならない。
仕方なく袋を抱えてリビングへ入ると、義母の古くからの友人がリラックスした様子でリビングのソファに座っていた。
「こんにちは」
「あらあら、ずいぶん大荷物ね。おかえり~!」
市橋さんはくわえていたタバコを灰皿に押しつけた。
煙い室内。顔には出さずに奥のキッチンで荷物の選別をする。
「買い物行ってたの~?暑いのに大変だったでしょ?」
「いえ」
「でも、まぁ自分だけならなんとかなるわよね」
「え、なによそれ」
市橋さんの言葉に義母が食いつく。
「実はね、うちの嫁が妊娠したっていうもんだからさぁ」
「えっ、みっちゃん?そうなの?」
「そうなのよ!もう3人目」
「性別は分かったの?」
「男、男、ときて今度は女の子よ。一姫二太郎ってやつ。今から楽しみでさ」
3人目……か。
義母と市橋さんの会話に苦い感情が込み上げてきて唇を噛む。
「そういえば、優花さんはまだお子さんの予定はないの~?もう結婚して3年でしょ~?」
市橋さんの突然の問いにびくりと肩を振るわせる。
振り返って笑顔を浮かべようとするも、少し表情が強張った。
「い、いえ。私たちはまだ……。こればっかりは授かりものなので何とも」
「そうなの~?でも、早く産んだ方がいいわよ?ちゃんとそのあたりも考えないと。もう35でしょ?いつまでも若いわけじゃないのよ~」

そんなこと言われなくても私自身が一番よくわかってるよ。
と、心の中で毒づく。