「なによ。ミニトマトぐらいでそんなにカリカリして」
「私にとっては大切なものなんです!」
そう叫んだ瞬間、玄関の扉が開きリビングに健太郎が入ってきた。
「なんだよケンカしてんのか?」
露骨に不愉快気な表情を浮かべて私の横を通り過ぎると、冷蔵庫を開けて2Lの麦茶が入ったペットボトルをラッパ飲みする。
何度やめてくれと頼んでも、一向に辞める気配はない。
そんな健太郎の行動がさらに怒りを逆なでする。
「ちがっ、お義母さんが私の育てたトマトを――」
「あのさ~」
私の言葉を健太郎が遮った。
「何があったか知らないけど、優花は生井家に嫁いできたんだから母さんに従うべきだろ?どこの家もみんなそうだし」
「全部我慢しろって言いたいの?」
「そうじゃなくて、多少の我慢は必要だって言ってんだよ。うちの母さんが姑でよかったと思うけど。他の姑はもっときついよ?」
「何が言いたいの?」
「同居してて自由にさせてもらってんだから、文句言うなよってこと。お前は我慢が足りないんだよ」
その言葉に、心の中で何とか割れないように必死になって保っていた何かが粉々に砕けた。
もう修復不可能なほど激しく音を立てて割れたそれは、涙となって私の瞳からボロボロと零れ落ちていく。
「なんだよ、泣くなよ!泣いたって解決しないぞ!」
忌々しそうに吐き捨てる健太郎。
「健太郎の言う通りよ?トマトをぐらいでギャーギャー言って。まったくみっともない!」
「ハァ?トマト?それぐらいのことで怒ってたのかよ」
健太郎と義母の顔が涙で歪む。