「そろそろ帰りますね」
くず餅を食べ終え、少し談笑した後私は立ちあがり玄関に向かった。
「くず餅、ご馳走様でした。残りはあとで頂きます」
「いえ。こちらこそ、ご親切にありがとうございました」
玄関でサンダルを履き、互いに頭を下げた時奥から駆け寄ってきた猫のフクが私の足元にまとわりついてきた。
「わっ」
思わずよろけると、「あぶない」と瀬戸さんの低い声がした。
二の腕を大きな手のひらで掴まれて私は瀬戸さんに引っ張ってもらい体勢を立て直す。
「大丈夫ですか?」
顔を覗き込まれて至近距離で目が合った瞬間、何かが弾けた様な気がした。
触れられている部分がジンジンと熱を帯びる。
相手に聞こえるんじゃないかと心配になりそうなほど、心臓の鼓動が激しくなる。
「こら、フク。突然足元にすり寄ったら危ないだろ。それに、今脱走しようとしてただろ」
少し厳しめの声で猫のフクをたしなめる瀬戸さん。
こういう声も出すんだとそんなことを考える。
瀬戸さんは再びフクが家の外に出ないようにふわりと抱き上げた。
「フクちゃん、またね」
つやつやとした毛並みの頭を撫でると、フクは気持ちよさそうに目を細める。
「では。おじゃましました」
玄関を出ると、瀬戸さんはフクの手を動かして手を振った。
フクは少し迷惑そうな表情で私を見つめる。
「ミニトマト、楽しみにしてますね」
去り際の瀬戸さんの言葉に私は振り返った。
「楽しみにしててください!」
ブンブンっと瀬戸さんとフクに手を振る。
こんなに楽しい時間、久しぶりだった。
「♪~~♪~」
家までの道中、鼻歌交じりに歩く。
もう19時近いというのに湿度も高く、じめじめと暑い。
にも関わらず私の心は晴れやかで暑さなんてたいして気にならない。
「帰ったらトマトに肥料をあげなくちゃ」
弾む気持ちと比例するように、歩くスピードはぐんぐん速くなった。