「別に先に食べればいいだろ」
「でも、そういうわけには」
健太郎が帰ってきていないのに先にご飯を食べたりしたらお義母さんにチクチクと嫌味を言われてしまう。
「ハァ……。気分悪くなったし、最悪。風呂入ってくる」
外したネクタイをベッドの上に放り投げると健太郎は怒りに任せて寝室の扉を開けて足を踏み鳴らして出て行った。
「ハァ……」
こうなると健太郎の怒りはしばらく続く。
無言の圧をかけられているようで居心地が悪い。
やれやれとため息を吐きながらネクタイやバッグを片付けていると、ブーッブーッとどこからかバイブ音が聞こえた。
「……あ」
ベッドの上に健太郎のスマートフォンがあった。
何気なく掴み上げてテーブルに移動させようとしたとき、画面の文字に目が留まった。
【けんちゃん今日も楽しかったよぉ♡】
ドクンっと心臓が不快な音を立てて鳴る。
え。どういうこと……?
けんちゃん……?
スマホを持つ手が小刻みに震える。
「なに……。なんなの……」
驚きのあまりスマホをベッドに落とした瞬間、寝室の扉が開いた。
「俺のスマホ知らない?」
「え……、知らないけど」
「あっ、あった」
健太郎はベッドの上のスマホを掴むと、再び寝室を出て行った。