ひと夏のキセキ

やめて。


それ以上言わないで。


何も話さないで。


声を聞かさないで。


求めたくなってしまうから。


離れたくなくなるから。


苦しいから…。


このまま、ひっそりといなくなりたかった。


「泣いてたってわかんねーよ」


遥輝がゆっくりと近づいてくる。


そして、その手が頬に触れた。


その瞬間涙がボロボロと零れ落ち、遥輝の指を伝う。


泣きたくない。


遥輝に心配かけたくない。


「俺は、絢のことが好きだよ」


もう、なにもかも投げ出してしまいたい。


治療も、恋も、なにもかも。


「絢の気持ち、教えて。嘘で包み隠さず、ホントのことが知りたい」


遥輝の手が頬から髪、頭へと温もりを残したまま移動する。