ひと夏のキセキ

「…寝れない」


施設が整った病院に転院し、そこからアメリカに向かうため、今まで十何年過ごしたベッドから慣れないベッドに変わったせいで余計に眠れない。


私、いつまで生きれるんだろう。


もし治ったら、遥輝はまた私を愛してくれるかな…。


それとももう新しい恋に進みたいのかな。


遥輝なら相手に困ることはないだろうし、新しい恋人なんてすぐにできるよね…。


自分から別れを告げておいて、治ったらやっぱり好きだなんて虫が良すぎるか…。


じゃあ私はなんのために渡航しようとしてるんだろう。


リスクがある旅なのに。


もう、何もかも嫌になってきちゃった。


スマホを開いてメッセージアプリを立ち上げる。


遥輝のことはブロックしてるから当然メッセージなんて届くはずもないんだけど、つい開いてしまうんだ。


どんだけ未練タラタラなんだって話だよね…。


遥輝を守るためって言い訳したけど、結局私が現実から逃げただけ。


自分の存在が遥輝を苦しめるという現実から解放されたかっただけなんだと思う。


つくづく酷い女だなぁ…私…。


「…嫌になっちゃう……」


私の呟きは暗闇へと吸い取られ、誰にも届かなかった。