コンコン…


控えめなノックが鳴った。


きっと神田先生だろう。


ここを出入りするのは両親と先生と看護師さんたちだけだ。


「絢ちゃん。調子はどう?」


「…別に」


呼吸が少し苦しい。


頭も痛い。


目眩もする。


忘れたいのに、忘れられない。


キラキラした想い出がこびりついて離れない。


消したいのに、消えてくれない。


こんなに苦しいなら、恋なんてしたくなかった。


遥輝なんかと出会いたくなかった。


何も知らないまま、死んでいきたかった。


そうさせてくれない遥輝は、酷いよ。


「今日は診察じゃなくて、ちょっとお話しようと思って来たんだ」


遥輝に似た目元が優しい三日月形になる。