ひと夏のキセキ

「茜がいじめられてることにもっと早く気づけていれば、茜の心がズタボロになっていることに気づけていれば、もっと茜に寄り添っていれば。それができなかった俺が悪い。俺が母さんや茜の人生を奪ったんだ」


逆光で表情は見えないけど、強く握りしめて震える拳はハッキリと見える。


今、一歩踏み出さなくてどうする。


遥輝がやっと本音を打ち明けてくれたのに、何もしないでいていいわけがない。


「後悔してもしきれない。俺の行動一つで救えたかもしれないのに、救えなかった。2度も、大切な人を殺した」


「そんなことない」


ギュッと遥輝の背中に抱きつく。


筋肉質だけど華奢な身体。


少し力を入れると折れちゃいそう…。


「そんなことないよ。もう自分を責めないで…」


お願いだから。


苦しみ続ける遥輝を見たくない。


遥輝は何も悪くないのに。


残された側はいつまでも苦しみ続けなきゃいけないなんて、そんなの理不尽だよ…。


顔を背中にうずめると、遥輝のゆっくりした鼓動が伝わってくる。


温もりも、寂しさも、孤独も。