ひと夏のキセキ

サラサラしたシーツの感覚が足から離れない。


キュッとシーツを握ると幾筋ものシワが寄った。


「父親が憎くて憎くてしょうがない。でも、1番憎いのは俺自身だ」


窓の外に吐き出された言葉はあまりに繊細で、受け止めることすら難しかった。


掛け布団をどかし、白いスリッパに足を置く。


でもその足を踏み出すことはできなかった。


私は意気地なしだ。


遥輝の心に触れることを躊躇ってしまう。


私が触れていいのか、踏み込んでいいのか、自信がない。


「どうすれば母さんや茜を救えたんだろうな」


目の前で大切な人が命を絶ち、救えなかった自分をいつまでも悔いている。


何年間もずっと…。


「俺がもっと茜の世話を手伝っていれば、家の事を手伝っていれば、父親との仲を取り持っていれば。今さらどうしようもない“タラレバ”が頭から離れない」


遠くから鳥の鳴き声が聞こえる。


あの鳥だ。


昔からこの辺りを悠々と飛んでいる真っ白い鳥。