ひと夏のキセキ

…私、遥輝にその話したっけ。


前例がないって伝えた覚えはない。


「なんで知ってるの?」


「何が?」


「私、前例がないって言ったっけ?」


もしかして…。


「アイツに聞いた」


神田先生と話したんだ…。


あんなに拒絶反応を示していたのに。


私のことを理解するためにそこまでしてくれていたなんて。


「絢こと、ちゃんと理解しないと守れねーから。何年ぶりかにアイツに自分から会いに行った」


「そうだったんだ……」


いつの間にそんなこと…。


遥輝にとって、神田先生に会いに行くことは、私の想像より遥かに難しいことのはず。


担当医を変えろと言ったり、話題に出すだけで不機嫌になっていた遥輝がそこまでしてくれるなんて…私、どれだけ愛されているんだろう。


「ありがとう…ごめんね…?」


遥輝は本当に私のことを愛してくれていて、守りたいと思ってくれている。


心から憎んでいる相手に自ら会いに行ったのがその何よりの証だ。


そんな人を自分のワガママで傷つけるわけにはいかない。