ひと夏のキセキ

私が折れるか遥輝が折れるか。


遥輝は折れないだろうなぁ…。


過去のこともあるから余計に…。


人の“死”にとても怯えていて、もう二度と過去を繰り返したくないと思っている。


私がそんな人と付き合っていていいんだろうか。


付き合うと決めたときから一生付き纏っている疑問が消えることはない。


「…この話、もうやめよっか。楽しい話しよう?」


遥輝の手をそっと退かし、葵に貰ったチケットを取り出す。


「これ見て。水族館のチケット。一緒に行かない?」


「…なぁ。俺の話聞いてた?」


…だよね。


そう言われちゃうよね…。


「でも、行きたいの。どうしても」


「治ってからな」


「治らないって言ってるじゃん」


遥輝のバカ…。


私はもうすぐ死ぬんだよ。


最後に思い出作りさせてよ…。


遥輝の誕生日、一緒に過ごさせてよ…。


今年が最初で最後なんだから。


「前例のない病気なんだろ?じゃあ治る可能性もあんじゃん」