随分遠回りな発言をしているように感じて、俺はあえて沈黙した。
 すると、彼女は観念したように口を開く。
「あ、あのさ……、それで、赤沢君って白石さんのことが好きなの?」
「え?」
「二人、結構話してるところ見るから」
 この前、橋田たちにもそんなことを聞かれた気がするけれど、どうして最近こんなにくだらない詮索をされているのか。
 正直言って、こんな風に他人から暴かれるのは避けたい。
 俺は真顔で「答える必要なくない?」とだけ言って、その場を立ち去ろうとした。
「ちょっ……、待ってよ!」
「何?」
「白石さん……、えりなや祥子に暴言を吐いたらしいよ。あんなに好感度高い感じだけど」
 去り際に俺を引き止めるように、彼女はそんなことを言ってのけた。
 でも、俺は一切動揺しなかった。
 むしろ、自分の殻を破って暴言を吐く粋を、見てみたかったとさえ思う。
「そうなんだ」
「そうなんだって……それだけ?」
「うん、もう行っていい?」
 引き止められ、視線の置き場所に迷っていると――突然ガシャン!という音がして、俺も立川さんも自転車置き場の方に視線を向けた。
「えっ、誰か倒れてる……?」
 立川さんが、驚いたように声を上げた。
 確かに、自転車のそばで女性が倒れこんでいる。
 よくよく目を凝らしてみると、その生徒は……粋だった。
「粋……?」
 その瞬間、頭の中が真っ白になって、気づけば勝手に足だけが動いていた。
 俺はすぐさま粋を起こして、こめかみから血を流している彼女を抱きあげた。
「粋、大丈夫か! どこが痛い?」
 周りの生徒が騒然としている中、俺は必死に粋の名前を呼んで、彼女の意識を保とうとした。
 しかし、一切反応がない。
 サーッと胸の中がうすら寒くなっていくのを感じて、俺はそのまま保健室へと向かった。
 呼吸音は聞こえるので、息をしていることにだけは、ホッとした。
 彼女がもしこの世界からいなくなったら。
 もう一生、会話をすることができなくなったら。
 二度とこの世で会えなくなったら。
 いくつもの後悔が波のように押し寄せて、不安で心臓が破裂しそうになっている。
 嫌だ。そんなことは。
 俺は……、まだ粋と一緒に、この世界を生きていきたい。
 赤沢八雲として。
「生徒が自転車置き場で倒れていました。意識はありません、すぐに救急車を呼んでください……!」