翌々日。巨大な台風が接近したものの、タイミングの悪いことに深夜には通り過ぎてしまい、学校は休みにならなかった。
 予報通りたしかに大きな台風で、強風の音で夜はあまり眠れず、朝外に出たら、どこからか飛んできた看板やゴミが散乱していた。
 俺は残念な気持ちで登校し、席に着いた瞬間机に突っ伏して仮眠モードになる。
 教師が来るまで眠ろうとすると、「えー!」という甲高い声が前の方の席から聞こえてきた。
 うるさいなと思いそっと視線を向けると、騒いでいるのは橋田と芹沢だった。
 ……あ、いつも通り、白石も一緒だ。須藤はまだ登校していない様子だ。
「まさか修学旅行で出会いあるなんて思わなかったー」
「えりな、超気に入られてたもんね、カラオケのときに」
「顔は正直好みじゃないけど、頭いいし背高いしありかなーって」
 キャッキャと何かの話題で騒いでいる二人を前に、相変わらず白石は笑顔を貼り付けている。
 よくもまあ、クソ興味ない話題にあんな風に付き合えるな……。
 心の中で感心しながらも、暫く傍観していると、そこにふとひとりの男子が現れた。
 確か、隣のクラスで人気の、やたら爽やかなテニス部のキャプテンだ。よく女子たちが騒いでいる。彼の前世は虫だったっぽいけど。
 その男子は、何やら白石に用があったみたいで、白石を教室のドアまで呼びよせ、スマホを取り出し何かをお願いしている。
 一気につまらなさそうにしている橋田と芹沢を見た限りでは、男子は恐らく白石の連絡先を聞いているんだろう。
 修学旅行中に聞けなかったからとか、そんな会話が微かに聞こえてきた。
 白石は戸惑いながらも、しぶしぶといった感じでスマホを出している。
 そんな白石を見た瞬間、橋田たちは何かを言い合い始めた。
「結局粋ってさあ……男子好きだよね」
「はは、やめなって」
 橋田の言葉に、芹沢が口元を手で隠して笑う。
 結構な声のボリュームで話しているので、周りの人はヒヤヒヤしている。
 あー、この感じ。本気で懐かしいな。
 異性が絡むと、急に敵が増えていくこの感じ。傍から見ていて、気持ちがいいものではない。というか、本気でしょうもない。
 白石が小走りで戻ってくると、二人はパッと表情を変えて、「さすがモテ女ー」と冗談めかしくひやかす。
 女子を煮詰めたような一連の流れを見てしまって、急に具合が悪くなってきた。