周りがガキすぎて話すことがなかっただけだが、高校生になってようやく普通の会話ができるようになった。
 だから、今はそこまで交友関係で悩むことは無い。
 俺は黙ってスマホをいじって、一枚の写真を父親に見せた。
「おお、これは……」
 父親はスマホを手に取ると、眼鏡を上にあげて目を凝らしている。
 見せたのは、秦野がインカメラで撮ってくれた、おばんざいを食べている時の写真だ。
 須藤は美味しそうに煮物を食べており、白石はピースをしている。秦野は満面の笑みで、俺はその隣でひとりで勝手に頼んだカレーうどんを啜っている。
 もちろん秦野に『同じもの食べないのかよ!』と突っ込まれたが、思い切りスルーして頼んだ。
「はは、楽しそうだ。これはおばんざいかな。……ん? 八雲だけ違うメニューだな」
「うん、何か味濃いもの食べたかったから」
「そういうマイペースなところ、母さんにそっくりだな……」
 父親は苦笑交じりにそうこぼしたけれど、嬉しそうな顔をしている。
 俺に友達がいることを確認できて、きっと安心したのだろう。
「皆いい子そうだ。いい班だったんだろう」
 その言葉に、改めて今回の旅行のことを思いだしてみた。
 意外と面白い性格をしている須藤に、いつも明るく騒がしい秦野に、じつは心配性で繊細な白石。
 皆ちぐはぐな性格をしているけれど、なぜかまとまりがあった。
 正直、本当にどの班でもよかったけれど、A班で旅行に行けてよかったと思う。
 随分間を置いてから、「そうだね」と答えると、父親はさらに嬉しそうに目を細めた。
「今日は疲れただろう。早く休みなさい。あ、カレーまだいるか?」
「いや、明日の朝食べるわ。ご馳走さま」
「そうか。お風呂沸いてるからな」
 俺はカレー皿を、父親の食器と重ねて、一緒に流し場に持っていく。
 汚れた食器をサーッと水に浸してから、俺はその流れで風呂場に向かおうとした。
『台風〇〇号が接近しています……』
 たまたまリビングから流れてきた天気予報を聞いた父親が、「今度の台風、大きいらしいな」とつぶやいた。
 悪天候だと極端にお客さんが減るといつも嘆いている父親は、困ったように眉を下げている。
 俺は、学校休みにならないかな、なんて心底思いながら、リビングを後にした。