それをあんたが言うな、というツッコミがあと少しで喉から飛び出るところだった。
「どういうこと?」
 何とか心を落ち着けて、質問に質問で返す。
「え、何かいつもつまんなさそうにしてない?」
「何それ、シンプルに失礼だね」
 言い返すと、赤沢君は「ごめん」と意外にも素直に謝った。
 その気の抜けた感じに、思い切り肩透かしを食らう。
 結構可愛い顔をしているから皆にも受け入れられているのかもしれないけれど、シンプルにデリカシーがなさそうだ。
 女子から〝鑑賞用〟と言われているのも納得。どう頑張っても会話が続かない。
 駅の反対車線をぼうっと眺めている赤沢君を完全に放置することに決め、私は鞄からスマホを取り出す。
 けれど、開いた瞬間スマホは黒い画面に切り替わり、虚しく力尽きた。
 最悪だ。教室で充電しておけばよかった……。
 私は乱暴にスマホを鞄に戻すと、どんより曇った空を見上げる。
「スマホ充電切れたの?」
 赤沢君が視線だけこっちに向けて問いかけてきたので、こくんと頷く。
 スマホがないだけで視線の置き場に困るなんて、随分スマホ依存症になっていたんだなと実感する。
 ほぼ無人の駅に、古いベンチ、二、三十分に一本しか来ない電車。
 どこを切り取っても平和なこの世界を眺めていたら、なんだか急に爆弾を落としてやりたい気持ちになってきた。
『何かいつもつまんなさそうにしてない?』
 さっき言われた言葉が、妙に刺さってしまっている。
 そんなにつまらなさそうに見えるのなら、急に爆弾発言を落として、思い切り赤沢君のことを動揺させてやろうかな。
 本当にふと、そんな悪い考えが浮かんだ。
「じつは余命宣告受けてるんだよね」
 私は、一切冗談めいたトーンではなく、至って真剣な声でいきなり告白してみた。
 「え」と小さい声が隣で漏れて、数秒の沈黙が流れる。
 ちらっと顔を横に向けると、赤沢君は何かを考えるように斜め先を見上げてから、ゆっくり口を開いた。
「あー、そうなんだ」
「反応、それだけ?」
 思わず、芸人ばりのスピードでツッコミを入れてしまう。
 表情筋を全く使わずに、どうでもよさそうに返してきた赤沢君の反応に、私はかなりがっかりした。
 絡みの薄いクラスメイトに、急にどう受け取ったらいいか分からない話題を出されたら、いくら赤沢君でも動揺すると思ったのに。