「光季さんと初めて会ったとき、なぜか“もう二度と会えないかも”って思ったんです……。どうしてか胸が苦しくて……初対面のはずなのに」
「……うん」
「光季さんは、あのとき何かを感じとっていましたか。まさか本当に、前世の記憶ってやつなんでしょうか……?」
 自分の真っ直ぐな問いかけに、光季さんは眉を下げて笑う。
 そして、静かに首を横に振ってから、肩にポンと手を置いてきた。
「……あなたは、今の人生を生きた方がいいと思います」
「え……?」
「今、あなたが泣いてるのは、あなたの感情じゃないかもしれない。前世の自分の感情に乗せられているだけかもしれない」
 光季さんの言葉に、思わず黙り込む。
 たしかに、今、自分の意思で泣いている感じはしない。
 まるで、何かの記憶に引っ張られているような……。
 不思議な感覚に、ただただ戸惑っていると、光季さんはぺこっと頭を下げた。
「ごめんなさい、急に。変な話をしてしまいました」
「いえ、そんな……」
「まあ、もし今、大切な人がいるのなら、その人を大切にした方がいいですよ。きっと」
 そうこうしてる間に電車の音が近づいてきて、別れの時間がやってきてしまった。
 光季さんは「この特急が過ぎたら、すぐに電車が来ますよ」と言って、ひらりと手を振った。
「私はここが最寄りなので。この電車でS駅に行けば、たいていの場所へ乗り換えられると思います」
「あ、はい……」
「じゃあここで」
 嫌だ。待って。まだ聞きたいことが山ほどある気がする。
 もっと話したいと思っていたのに、彼女はあっという間にこの場から去ろうとしている。
 もう二度と会えないかもしれない。
 また、そんな感情が心の奥底から湧いてきた。
 嫌だ……。どうしても、彼女のことを繋ぎ止めたいと思っている。今。
「……見つけられてよかった」
 どうにか引き止めようと考えていたそのとき――、光季さんがぼそっとそんなことを去り際につぶやいた。
「え……?」
 戸惑っているうちに、改札を出ていく光季さん。
 そのうしろ姿を見つめたまま棒立ちしていると、特急列車が通過するアナウンスが流れた。
『一番線に、特急〝やくも〟、特急〝やくも〟が通過します……』
 突風が体を横切る。
風切り音が鼓膜を振動させる。
 風はネクタイを思い切り揺らして、列車は瞬く間に見えなくなっていく。
 その、たった数秒間。