だけど、今ここで彼女のことを知りたい。
 心がそう、叫んでいる。
「あの、お名前は……?」
「光季(みつき)、です……。光に季節で」
 ダメもとで聞いたけれど、意外にもすんなり名前を教えてくれた。
 光季という名前が、驚くほどしっくりくる。
 彼女のことを何も知らないのに、彼女にぴったりだと思った。
「学年は?」
「今二年生です」
「一個下だ」
 質問すればちゃんと答えてくれることに、ほっと胸をなでおろす。
 彼女の情報を少しずつ知ることができて嬉しい。
 けれど、一番知りたいのは、なぜあのとき泣いたのかということだ。
 変なことを聞いたら嫌われてしまいそうで、問いかける勇気がない。
 ……その代わり、何とか場を繋げるためにも、たびたび彼女が夢に出てきていた話をしようと思った。
「あの、怖がらないで聞いてほしいんだけど……。光季さんが、夢の中に何度も出てきたことがあって……」
「夢に……?」
「もしかして、元から知り合いだったりしますか」
 あまりに非現実的な話題に、思わず自分でもツッコミを入れたくなる。
 しかし、光季さんはそんなに驚いていないようで、むしろ少し微笑んでいるようにも見えた。
「もしかしたら、前世で会っていたのかも」
「え?」
 突然、突拍子もないことを言ってのける彼女の言葉に、思わず動揺してしまった。
 光季さんは眉を少しだけ下げて切なげな表情をしながら、そっと手を握りしめてきた。
「私たまに、その人の手を握ると前世が見えたりするんです」
「前世が……? え……?」
 思い切り困惑していると、ぎゅっと手に力が込められた。
 こんな話、普段なら絶対に信じないのに。
 でもなぜか、彼女が嘘をついているようには見えない。
「なんて、冗談です」
 突然、ニコッと明るい笑顔を見せてきた光季さん。
 その笑顔を見た瞬間――なぜか急に、目に涙が浮かんできた。
「あれ……? どうして……」
 ポロポロと、原因不明な涙が止めどなく流れてきたので、両手で受け止める。
 だけど、目の前にいる光季さんは、一切驚いた様子を見せずに、ただじっと穏やかな顔をしている。
 どうして? 普通、見知らぬ人間が急に目の前で泣きだしたら、不審に思うはずなのに。どうしてこんなに落ち着いているんだ?
 感情の整理をするために、光季さんと初めて会ったときに感じたことを伝えることにした。