「もしこの紙をなくしても、いつでもここにおいで」
 そう付け足すと、女の子は頷くでも首を振るでもなく、ただじっとその折り紙を見つめて、複雑そうな顔をしている。
「人は生まれ変われるけど、あなたがあなたとして生きられるのは、この人生だけだよ」
 私の言葉をどう受け取ってもらえるかは、この子次第だ。
 自分でも、ものすごく綺麗ごとを言っていると分かっている。
 この子に生きてほしいと思っているのは私のエゴで、押しつけだ。
 だけど、それでも、どうかひとつでも何かがこの子の心に届くようにと、願わずにはいられない。
 今の人生でしか得られない幸せが、この先にあるかもしれないから。
 コンコンというノック音が聞こえてきて、お母さんが部屋の中に戻ってきた。
「すみません……。もう済みましたか?」
「はい。ありがとうございました」
「これ、粗品ですがお見舞い品としてお受け取りください。……では、あまり長居してもなので、私達はこの辺で失礼します。……ほら、行くよ朱莉(あかり)」
 あかりちゃんという名前だったんだ。今度会うときがあったら、名前で呼ばせてもらおう。
 お母さんに手を引かれながら、女の子は最後にとても小さく手を振ってくれたので、私もひらひらと手を振り返す。
 バタンとドアが閉まってから、私はふぅと一息ついて、窓の外を眺めた。
 朱莉ちゃんが抱えているものを、想像せずにはいられない。
 どうか、彼女のSOSがちゃんとした場所に届くようにと……、心から願った。
「これでよかったのかな……」
 空に向かって、そんなことをぼんやりと問いかけた。
 もし、朱莉ちゃんが本当に助けを求めてくれたら、そのときは全力でできることをしたい。
 瞼を閉じると、夢花と八雲の顔が浮かんできて、心臓がギュッと苦しくなった。
 残り少ない時間を、誰かのために使いたい。
 そんなことを、私は今、心の底から思っている。

 そして、月日は流れ……一か月後。
 同じ院内で、可愛い可愛い妹が生まれた。
「粋お姉ちゃんだよ。はじめましてーって」
「うわ、ふわふわだあ……っ」
 私はベッドからなかなか動けない状態になっていたので、病室まで赤ちゃんを連れてきてもらった。
 母親は生後間もない赤ちゃんを抱きながら、よしよしとあやしている。
 赤ちゃんは至る所がふわふわで、温かくて、本当に天使みたいな可愛さだ。