私が出した条件は、父を助けてもらうことだった。
 聖女として、国と国民のために生きるはずだった私が、今や、自分の父親の命と国民の生命を引き換えにしようとしている。
 こんなことを考え、実行してしまう私は、最初から聖女にふさわしい人間ではなかったのかも知れない。たとえ、追放などされなくても。
 

 フィリップに説明をする際、私は自分の本当の身元と、父との関係は伏せた。だから、フィリップにしてみれば、私の話はさぞかし説得力に欠けているように聞こえたことだろう。
「……それで、その無実の罪で囚われている男性を助けて欲しい、と」
「はい、そうです……」
 ――どう考えても無理よね……。
 私はあきらめ始めた。
 フィリップは少しの間、考え込むように黙った。
「わかりました。交渉してみましょう」
「! 本当ですか……」
 信じられなかった。自分の身元も明かさずに、こんな話を持ち掛けたら、余計に怪しまれてもおかしくない。
「その男性は、あなたにとってとても大事な人なのですね」
「ええ、とても」
「そうか。それは妬けてしまうな……」


 手こずると思っていた交渉だったが、流行り病に対する恐怖に比べれば、私の出した条件など大したものではなかったらしい。
 聖女である母は、あっさりと父を自由の身にすることを認めたそうだ。