今の私の人生において、国王陛下にお目にかかるような事態は、全く想定していなかったことだ。
 だから私は、国王陛下の前に出られるような準備は何一つできていなかった。
 そこで、使者にそのことを伝えると、『こちらで準備するので、手ぶらで来てくれればよい』とだけ言われた。


 ――謁見当日。
 私は謁見用の衣服一式を受け取った。
(これは……!)
 渡された衣服は、聖女が纏う衣装を想起させた。
 とは言っても、聖女の衣装は、舞踏会で着るようなドレスとは違い、レースやリボンなどの装飾品は一切なく、その形状もごくごく平凡なものである。
 だから、よくある服だと言うこともできる。ただの偶然だろう。
 それでもこの服を着て、姿見の前に立つと、次期聖女だった頃の私がそこにいるような感覚に陥った。


 ――懐かしい。
 謁見の間に入って一番最初に抱いた感想だった。
 つい最近まで、私は、謁見される側としてこういった場に出入りしていた。とは言うものの、私は母の横で立っているだけであったが。
 それでも、他国の要人から市民まで多くの人を見てきた。
(あの方が国王陛下ね)
 奥の立派な玉座に一人の男性が座っている。
 私はゆっくりと玉座に向かって歩みを進め、頭を下げた。
 声をかけられ、頭を上げると、国王陛下と目が合った。
(! 私の記憶違いでなければ、以前お会いしたことがある……)