今着ている服のままでは、またスリの被害にあいかねないことがわかった。
 そこで私は、服を買うことにした。
 ちょうど私の目の前に、古着屋があった。どうやらこの店は、古着の販売だけではなく、買取も行っているようだ。


(何なのかしら……この生地。やけにごわごわするわ)
 購入した古着を着た私は、その肌触りの悪さに驚いた。
 それでも、私は、店で売っている服の中では、比較的状態が良い服を選んだつもりだった。
(この国の国民は、こんな服を着ているの? それとも、私が着ていた服が特別贅沢だった……?)
 私は、国民の幸せを祈る聖女になる立場にあったのに、国民のことを何も知らなかったのかも知れない。
「ここへ行くにはどうしたらいいのでしょうか?」
 私は古着屋の店主に、父からもらった紙切れを見せた。


 店主は、私に乗合馬車で行くことを勧めた。
 なぜなら、紙切れに書かれていた場所は、乗合馬車の終点付近にあるからだ。
 私は今まで、自分の意思で外出をしたことがない。外出をするときは、いつも誰かが外出の準備をしてくれ、私は馬車に乗るだけで良かった。
 だが、今の私は、自分の意思で全てを決めなくてはならなかった。
 一人で行動することは、私を不安にさせた。そして、聖女の宮殿に住んでいた頃の生活が非常に恵まれていたと痛感した。


 乗り心地の悪い馬車に揺られ、私は目的地にたどり着いた――そこにあったのは、農場であった。