暇を持て余しているのか、アベルは毎日のようにやってきた。
 と言っても、私とは特に関りを持つことはなく、敷地内にある大木に登ったり、木陰で昼寝するくらいだ。
 私もずっと建物の中にいるわけではないので、外で会ったときに、軽く目を合わせるくらいだ。
 特にこのまま放っておいても問題はない、と私は判断した。


 ある晩のこと、私がそろそろ寝ようかと思っていると、扉を叩く音が聞こえた。
(こんな時間に誰……? もしかして、お父様が戻っていらっしゃたのかしら?)
 つい先日、別れを告げた父のことを思い浮かべながら扉の前に立つと、
「急用なんだ。扉を開けてくれないか?」
 と外から声がした。
(アベル!)
 私は、扉を開けようと、反射的に取っ手に手を伸ばしていた。
 しかし、指先に取っ手が触れた瞬間、我に返った。
 ――一体、こんな時間にアベルが私に何の用だろうか? 
 私が扉を開けることを躊躇している様子が、アベルにも伝わったようだ。
「仲間が怪我をしたんだ。この間の塗り薬を分けてくれないか」
 私の不安を取り除くかのように、アベルが訪問の理由を告げた。
 その言葉を聞いて、私は不安を取り去った。
「どうぞ入って」
 扉を開け、アベルを中に入れた。
「今日、作ったばかりの薬があるから、持ってくるわ。そこで待っていて」