まねき亭へ帰りつくと、千里は冷たいお茶を璃世に出してくれた。
 昨日と同じ不思議な古道具に囲まれた猫足のローテーブルで、璃世は再び千里が出してくれたお茶を飲む。

 サラリとした口当たりとまろやかな甘み。一気にゴクゴクと飲み干した後、口から自然に「おいしい」という言葉がこぼれた。今やっと喉が渇いていたことに気づいたのだ。

 結局あのまま、千里に抱えられてまねき亭へと戻ってきた――ものの五分とかからずに。
どこをどう進んだのかまったくわからないが、行きとは全然違う道だということはわかる。あの鴨川デルタを見なかったからだ。

「そんなに近道があるなら教えてくれたらよかったのに」
「近道を教えただけでたどり着けるくらいなら、迷子にはならんと思うが?」

 あっさりと一蹴され、言い返したいが二日連続迷子の実績がある。頬をふくらませることしかできずにいるたら、千里がさらに追い打ちをかけてきた。

「そもそもあの道はおまえひとりでは無理だ」
「すみませんね、筋金入りの方向音痴で」

 そこまで言わなくてもとムッとしたら、「違う」と返ってきた。

「そういう意味じゃない。あれは実在の道ではないから人間には通れないということだ」
「実在の道じゃない?」

 サッパリ意味がわからない。
 思いきり眉根を寄せたら、千里が説明をくれた。

 璃世が取り残されていたのは“狭間(はざま)”――この世とあの世の間にある異空間。うまく使えば実在の場所を短時間で移動できるが、基本的にはこの世ならざる者たちの通路だと。