「大丈夫か?」
「だ、大丈夫……」

 そうは言ったものの、いざ立ち上がろうとしたら膝が笑って力が入らない。

「大丈夫ではなさそうだな」
「わ、私がいつあなたの嫁になったっていうのよ……」

 悔しまぎれにそう言った璃世を見て、千里がくつくつと肩を揺らして笑う。
するとそのとき、バサバサという音と共に一羽のカラスが舞い降りてきて、彼の肩にとまった。

「さっきの! もしかしてあなたの仲間だったの?」
「仲間……ではない。ただの情報屋だ」
「情報屋?」

 意味がわからずキョトンと首をかしげる璃世に、カラスは様々な情報を集めて売るのが生業だと千里は言った。

「ええっ! カラスって……どこにでもいるあのカラス⁉」
「ああそうだ。こいつらは日本全国どこにでもいるからな。独自のネットワークを持っていて、どうかしたらテレビやネットで知るより早いこともあるんだぞ」
「う、うそ……」

 カラスと言えば街中でゴミをつついているくらいのイメージしかなかった璃世は、驚きを隠せない。
 もしかして自分の情報もこのカラスから⁉ と千里の肩を凝視する。

「便利は便利なのだが、その情報料がバカ高い。悪徳高利貸しも顔負けのぼったくりだぞ――いてっ!」

 辟易としながら話していた千里が途中で声を上げた。カラスが彼の頭をつついたのだ。

「こら! やめろ!」

 言いながらカラスを手で払うと、カラスは大きな声で「カー!」とひと鳴きしてからどこかに飛んで行ってしまった。

「くそっ、暴力カラスめ!」

 カラスが飛んで行った方を睨みながらぼやいた千里が、再び璃世の方に向き直った。「ほら」と言っておもむろに手を差し出す。目を丸くする璃世に、彼はふぅっとため息をついた。

「手。立てないんだろう? つかまれよ」
「あ、え……っと……」
「それともいつまでもここに座っていたいのか?」