妹のソフィが、王都からこの遠く離れたロンベルク辺境伯領までやって来た。

 従者も連れずたった一人、ボロボロの汚れた格好で。髪の色も銀髪から黒髪に変わっていて、つい数か月前に私を送り出した姿とは全く違う姿になっている。

 何かに怯えた様子のソフィは気が立っていて、ちょっとした物音にも過敏に反応する。
 私が使用人の前でも「ソフィ」と呼んでしまったので、みんなソフィの正体に気付いてしまっているようだ。彼女が、使用人たちが嫌がらせをして追い出そうとしていた『ソフィ・ヴァレリー』であることに。


「ソフィ、お父様が心配していると思うわ。とりあえずここに到着したことをお父様にお知らせしておきましょう」

「……いやだ、絶対に言わないで」

「詳しい事情は知らないけれど、本当はソフィがここに嫁ぐべきだってお父様に言われたんでしょう? 王都からこんな遠いところまでの移動だもの。お父様はきっと、あなたが無事にロンベルクに到着したか心配しているはずよ」

「やめて! 知らせなくていいって言ってるの!」


 金切り声を上げたソフィは、お茶が入ったままのティーカップを壁に投げつけた。近くにいた使用人が私の前に駆け寄ってソフィを睨む。

 興奮しているソフィの気持ちをこれ以上逆なでしては、使用人たちにも危険が及ぶ可能性もある。
 騎士団たちの怪我の治療も急務の中、ソフィが暴れ出して手を取られるわけにはいかない。まだユーリ様もカレン様も戻っていないのだ。

 トラブルが起こらないようにソフィを落ち着かせなければ。

 私の前に立った使用人をそっと後ろに下がるように促し、私はソフィの手を取った。


「ソフィ、落ち着いて。分かった、お父様には連絡しないから、まずはその格好をどうにかしましょう」


 体と髪をきれいにして、私のドレスを貸すことにした。