「……ソフィ? どうして?」
「お姉様! やっと気付いてくれたのね! お姉様には連絡が来てないと思うんだけど、実はリカルド・シャゼル様へ嫁ぐべきなのは本来はお姉様じゃなくて私だろうっていう話になったの。それで私、ここに来たのよ」


 よく見ると、ソフィが羽織っているローブの下のドレスは土や埃で汚れている。腕や顔にはうっすらとアザが見え、とても誰かに嫁ぐためにやって来たとは思えない格好だ。
 王都はもう初夏の頃だろうに、こんなローブを羽織ってくるなんて、誰かから身を隠そうとでもしたのだろうか。


「ソフィ、落ち着いて。元はと言えば、あなた自身がここに嫁ぐのを嫌がったのよね? 支離滅裂だわ。それにその格好はどうしたの? まずは着替えて、少し休みましょう?」

「ありがとうお姉様! ねえ、お姉様の部屋に連れて行ってくれる? 早く、早く行きたいの!」


 私の手をつかむソフィの手に力が入り、肌に爪が立った。痛みを感じて手を引こうとしても、彼女の力が強くて振り払えない。ボロボロの服、アザだらけの体、乱れた髪、そしてこの焦った様子。

 どう考えても普通じゃない。何かに追われているような様子にしか見えない。実の妹に対して恐怖すら感じてしまった私は、誰かいないかと周りを確かめた。


「ネリー! 誰か、ネリーを呼んで、お願い!」
「お姉様、別にいいのよ。お姉様が案内して? 何を辺境伯夫人ぶってるのかしら。この家の女主人になるのは私だって言ったでしょ」


 ソフィはよろよろと先に屋敷の中へ向かった。