リゼットと出会って初めて分かった。『目の前で困っている人を助けよう』と言う気持ちと、『たとえ目の前にいなくてもいつもその人のことを助けたい』という気持ちは別物だった。

 五年も経ってカレンがなぜ俺の事が好きだなんて言い始めたのか分からない。急にこうして俺との距離感を詰めてくる意味も分からない。
 しかも今のカレンは俺への好意というより、リゼットを責めることに気持ちが向いている気がする。


「魔獣のことにケリがついたら、二人で一緒にロンベルク騎士団から出よう? 別の騎士団に仕官して、ここから離れるの。私はあなたについていく。もう二度とあなたに、悲しい目や辛い思いはさせない」

「カレン。それじゃまるで俺がカレンと離れて悲しい思いをしたみたいに聞こえる。前も言ったが、昔の話を蒸し返さないでほしいんだ。俺はこれからリカルドがちゃんと仕事ができるようにサポートしなければいけない。リゼットとも約束した」

「だから、なんであなたがリゼットさんのために自分を犠牲にしないといけないの?あなたの人生はあなたのものでしょ?他の人に遠慮する必要ない」

「犠牲だなんて思ってない!」


 カレンの「犠牲」という言葉に苛立ち、馬を止めて振り返った。カレンの横まで馬を進める。


「俺は自分を犠牲にしてリゼットを守ってるなんて思っていない。俺がそうしたいからやってるんだ」

「あなたがリゼットさんに惹かれてるのは知ってたわ。でも結局はリゼットさんをリカルドに譲るんでしょ? それでユーリが納得しているなら、きっとリゼットさんのことを心から欲しいと思っているわけじゃないのよ。ユーリは優しいから、リゼットさんの可哀そうな境遇に同情しているだけよ」

「……俺が大切に想ってるのはリゼットだ。欲しいものを欲しいと素直に言っていいなら、俺はリゼットにリカルドの妻になれなんて言わなかった!」


 苛立ちがあふれて大声でカレンに怒鳴ってしまったその時、カレンの姿の右後方の木々の間から素早くこちらに走り込んでくる何かが目に入る。

 ……魔獣だ! 大きく尖った角をこちらに向けて近付いて来る。


「……カレン、そこをどけ!!」