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グレースへ

いつもお母様の様子をお手紙で教えてくれてありがとう。お母様が眠り続けている理由が、分かるかもしれません。
近いうちに一度ヴァレリーの屋敷に戻ります。お母様の部屋に入る方がいれば、記録を残しておいてください。

リゼット・シャゼル
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 ウォルターに手紙を預け、ここに残った騎士団たちの戦闘準備を窓から眺める。

 魔獣は約二週間前に現れたらしい。被害にあった人の通報が遅れたことで、騎士団の派遣も魔獣出没から二週間後という後手後手に回ってしまっている。もしかしたら魔獣は既に森を出て、すぐ近くまで来ているかもしれないのだ。

 日が落ちて暗くなってきた廊下に、ウォルターが灯りをともした。

「奥様、ここの者たちは慣れていますのでご心配なさらなくて大丈夫です。使用人たちも訓練を重ねています」

「ウォルター、ありがとう。この屋敷の中で、私が一番緊張しているかもしれないわね」

「よくお眠りになれますように、後ほどラベンダーのお香でも焚きましょう。毒は入っていませんのでご安心を」

 ウォルターのブラックジョークに、私は苦笑いだ。