夕方、執務室で仮眠をとっているユーリ様にブランケットをかけにいった。そっとかけたつもりだったのに、彼は目を覚ましてしまった。

「リゼット……」

「あ、起こしてしまいましたね。申し訳ございません。もし少し時間がありそうでしたら、寝室でお休みになっては?」

「そうだな。明日の昼には領内の警備も整いそうだから、俺たちは森へ向けて出発する。大切な話がこんな中途半端になってしまって申し訳ない」

「いいえ、まずは魔獣のことを優先に。私は一応の辺境伯夫人として、この家を守ります」

「……俺がこんなことを言えた義理じゃないのは分かっているが、リゼットにこの家の留守を頼む。ここを守るために騎士団は半分残していく。この屋敷が変な形をしているのは、こういう時に攻撃しづらくなるためだから。安心して。地下に避難できる場所があるから、何かあればウォルターと一緒に全員で地下に避難してくれ」

「分かりました。お気をつけて。リカルド・シャゼル様がご不在の今、この家の責任者は私だと思っています。使用人たちのことも任せてください」


 ユーリ様はブランケットをたたみ、立ち上がる。

 部屋から出て行こうとするユーリ様を、つい呼び止めてしまった。


「……くれぐれもご無事で。必ず戻ってきてください」


 元はと言えば私だって、ソフィの身代わりで嫁いで来たのだ。そしてユーリ様もリカルド様の身代わり。私ばかりユーリ様を責めるわけにはいかない。元々ヴァレリー家から嫁ぐはずだったソフィの代わりに、私が来ることなんて知らなかったのだろうから。

 会うはずのなかった身代わり同士の私たちがこうして出会ったのも何かの縁。
 例え短い間であっても、ユーリ様が私にとって大切な方であることには変わりがない。

 最後はきちんと終わらせよう。


「必ず戻る」
「はい」

 旦那様は私の目を見ることなく、執務室をあとにした。