「あなたから頼まれた件よ」
「結果は」
「普通のスミレじゃないわ。ドルン領特有のドルンスミレ。押し花になっていたからハッキリとは分からないけど、恐らくドルンスミレの毒を強化する加工がされてた」

(毒を強化……?)

 調査結果をパラパラとめくる。
 そんな花を、なぜリゼットの母親は図鑑なんかに挟んで取っておいたのだろう。ドルン出身でもなさそうだし、わざわざ取り寄せて毒性を強化するとは。

 もしかして、夫であるヴァレリー伯爵を恨んで命を狙っていたとか? いや、あの心優しいリゼットの母親がそんなことするはずがない。

 考え込み過ぎて無言の俺に、カレンはあきれ顔だ。


「どうする? これ以上調べるなら、ヴァレリー伯爵家に潜入しちゃうしかないわよ。そこまでする? 彼女はあなたの本当の妻でもないくせに」

「……カレン!」

 なぜ急に俺の心をえぐるようなことを。リゼットが俺の妻じゃないことなんて分かっている。俺が自分のエゴのために、彼女をここに引き留めていることも。

「あなた最近おかしいわよ。このままリゼットさんがここに残ったところで、あなたとは絶対に本当の夫婦にはなれない。あなたのことがもし彼女にバレたら、最悪このままシャゼル家はお取り潰しよ」

「……わかってるよ」

 彼女の方から離婚したいと言わせるように仕向けろと言いたいんだろう? 俺がリカルドの身代わりだとバレる前に。カレンはリカルドのことを好きなんだろうし、シャゼル家が取り潰しになると困るよな。リカルドが路頭に迷うのを見たくないだろう。
 
 もしリカルドが今になって現れたらどうなる?

 伯父上はリカルドを説得して何とか仕事に戻そうとするだろう。そうなれば、俺の身代わりは終わる。リゼットにとっての夫は突然別人に変わる。

 彼女を、リカルドに渡すことになる。