私の体調も戻り、気分転換にと旦那様と二人でロンベルクの街に散歩に出かけた。

 ここへ来てからは、結婚式のために教会に行った以外は屋敷の外に出たことがなかったので、街の景色がとても新鮮に映る。王国北部にあるこのロンベルクでは王都より少し遅い今が春爛漫で、街中にも花が咲き乱れ、空気も暖かく、人々の足取りも軽い。

「旦那様、今日はどこでお昼を頂きますか? 私は、せっかくなのでロンベルクの郷土料理を食べたいです!」
「前々から思っていたが、リゼットは意外と食いしん坊だな。毒から回復して目覚めた時も、起きた瞬間『お腹がすいた』などと言うし。そんな人は見たことがない」

 旦那様は声を殺して笑っている。ええ、色んな女性とお付き合いのある旦那様が言うのですからそうなのでしょう。私みたいに食いしん坊な女性は、他にいないかもしれませんね。

 でも、みんな食いしん坊であることを隠しているだけかもしれませんよ?


「私、食堂で働いていましたので。食べ物にはうるさいんです。旦那様なら美味しいお店、ご存じでしょ? 数々の女性を口説いてお誘いになってたでしょうから」
「リゼット……その話はやめてくれ」

 旦那様の浮気相手さんは、一体どこにお住まいなのだろうか。ここに嫁いでから二カ月近くが経つのに、旦那様が浮気相手さんの家に入り浸るそぶりが全く見えない。ソフィがあれだけ拒否するほどの女好きというから、覚悟はしていたのだけれど。

 こうして私の体調も心配をしてくれて、気分転換に街にまで連れて来てくれる。

 一体いつ、浮気相手さんと会っているのだろうか? しかも、一人じゃないでしょ? 朝と晩で相手が違う程の女好きなんでしょ?

 旦那様に直接聞けばいい。それは分かっている。

 だけど、人の噂より自分で目にしたことを信じたいという気持ちもあって、旦那様には聞けていない。

 私から見た旦那様は、少し照れ屋で奥手で真面目で……私のことを大切にしてくれている気がする。でも、それを直接確認するのは怖い。だって、「君のことを愛することはない」って釘を刺されたのだから。

 愛されなくたって平気だとか、浮気相手さんが何人いても気にしないとか。そんな風に思い込もうとした時もあったけど、本当の気持ちを言うと、私はやっぱり旦那様の家族になりたい。旦那様に、お母様が寝たきりになってからずっと一人だった私の家族になって欲しい。

 相手がそれを望んでいないことは分かっているのにね。
 何をどう考えても、何度自分の気持ちを否定しようとしても、私は旦那様に惹かれている。