ネリーが部屋に戻って来て、私を見た途端悲鳴を上げた。

「奥様! 顔が真っ青です。大丈夫ですか? 旦那様がお見舞いにいらっしゃってるのでお通ししますね。すぐに医師を呼びますので!」

 遠のく意識の向こうで、ネリーと旦那様の声が聞こえる。
 旦那様の姿を見ようと少し頭を動かしたら、コツっと何かにおでこが当たった。

 ……図鑑だった。
 朦朧としかけた意識の中で、図鑑をベッドに置いて抱いたまま眠ってしまったことを思い出す。

「……リゼット! しっかりしろ! 大丈夫か?」

 旦那様が私のベッドの横に来て、私の手をつかんだ。旦那様の手がすごく熱く感じるので、私の手は相当冷えてしまっているに違いない。
 こんなにハッキリと、うろたえずに話す旦那様を見るのも珍しいわ。

「……旦那様、朝食をご一緒できず……申し訳ありませ……」
「リゼット、朝食なんてどうでもいいから。熱はないな、呼吸が苦しいのか?」

 旦那様は私の額と頬に手を当て、熱がないか確認してくれたようだ。呼吸はどんどん苦しくなって、自分の目にも胸が上下して必死に呼吸しているのがうっすらと見えた。

「私、風邪でしょうか……すごく息が苦しくて……」

 旦那様が私の名前を呼ぶ声を聞きながら、私の意識はそこで途切れた。