実は私も、本心を言えばここにずっといたいと思っている。

 ヴァレリー家にいるグレースからの手紙で、お母様はきちんと診察を受けてこれまでどおり過ごしていると聞いている。離婚して王都に戻ったところでお父様になぜ離婚したのかと叱られるだけだし、もしかしたら私への腹いせでお母様にもひどいことをするかもしれない。

 せっかくこうして旦那様やウォルターとも少しずつ打ち解けてきたところだから、このままここロンベルクでずっと過ごせたらいいなと思い始めたところだった。
 でも、私の存在が旦那様のストレスになっているのだとしたら? 私がここに来てから、浮気相手さんのところに行きづらいなんて思っているのかもしれない。

 旦那様のご迷惑になるくらいなら……ヴァレリー家に戻って、お父様からお母様を守りながら、今まで通り生きていくことだって選択肢の一つだ。


 ウォルターが持ってきた鏡を持って、自分の頭を覗き込む旦那様の前には、朝食が既に並んでいる。そのお皿の横には……昨日摘んできたアルヴィラがまた飾られていた。

 朝日を浴びて銀色に輝くアルヴィラの花に目をやる。

 アルヴィラ、アルヴィラ…………染物の材料……もしかして!


「旦那様! もしかして、昨日食べたアルヴィラが原因ということはないでしょうか」
「アルヴィラが?」
「はい。アルヴィラは染物の材料になる花です。布を染めるのに使うくらいですから、髪の毛を染めることも……いいえ、そんなわけがないですね」

 花をすりつぶして外側から髪を染めるならいざ知らず、花を食べたら髪の毛が染まるなんて。突拍子もない考えをしてしまった。そんなことがあるわけがない。


「……カレンだ。カレンに聞いてみよう」
「カレン様は何かご存じなのですか?」
「カレンは、騎士は騎士でも薬草などを扱う専門要員なんだ。だからこの前の視察にも連れて行った。湖の水質調査をするのに、知識がある者が必要だったから」
「なるほど。アルヴィラの成分や効用も、調べて頂けるかもしれませんね」

 アルヴィラの花を包むように、旦那様がウォルターに指示をした。

 
 もし本当にアルヴィラで髪の毛が銀色に染まるのなら。



 私の髪を銀色に変えることもできたかもしれない。そうすれば、お母様もお父様からあんなひどい言葉を投げかけられずに済んだかも。

 旦那様との朝食は嬉しかったはずなのに、お母様のことを思い出して少し気持ちが塞いだ。