ユーリは由緒あるシャゼル家の一員だが、少し複雑な事情を抱えている。ユーリは妾腹で、兄二人と違って幼い頃から母の元で平民として育てられた。
 その母が亡くなってシャゼル家に引き取られたが、兄二人からは疎まれて肩身の狭い思いをしたという。
 本当は騎士になりたかったユーリは騎士学校への入学を許されず、諦めていた。その状況を変えたのがリカルドだった。

 ユーリと一緒に騎士学校に通いたいと言って、大泣きしてゴネたのだ。

 まだ幼い頃だったとは言え、今思えばあれは演技だったのかもしれない。ユーリを騎士学校に入れるために、リカルドが恥を捨てて一芝居打ったのかも。

 どちらにしても、リカルドの父親がユーリの父親に進言したことによって、ユーリは騎士学校に通えることになった。

 そのことがきっかけで、ユーリは何かにつけてリカルドに遠慮するようになった。

 元々争いが嫌いなリカルドは騎士学校の成績も振るわず、自分の興味のある医学や科学に没頭していた。逆に、ユーリは同期の中でも騎士としての腕はトップクラス。でもいつもユーリはリカルドに遠慮していて、自分の手柄は全てリカルドに譲った。騎士学校に入れてもらえた恩を忘れていないのだろう。

 だからユーリが私のことを好きだと言った時は、かなり驚いた。

 私のことはリカルドに譲らないんだ、と。

 ユーリのことは好きだったけど、何となく彼の気持ちが重かった。何でもリカルドに遠慮するユーリが、初めて自分から欲しいと言ったのが、私だった。

 彼の気持ちに応えたいけど、彼と同じくらいの強い想いは持てないと思った。どうしたらいいのか分からなくなって、結局私はユーリの気持ちを拒み、リカルドの元に走った。

 女好きだった彼となら、自分の心と真正面から向き合うことなく、軽く付き合えると思った。