「ユーリ。お前が騎士学校に入れたのは誰のおかげだ?」
「え……? それは……」
「誰のおかげだったっけ?」

 伯父の目は血走っていた。
 嫌な予感がした。

「騎士学校に入学を認めてくれなかった父を説得してくれた伯父上のおかげです……」
「そうだろう?!」

 今度は伯父の目がキラキラと輝き始めた。これは、何かを押し付けられる気がするぞ。

「リカルドが戻るまで、ユーリ、お前が身代わりになってくれ!!」
「は……はあっ?! 身代わりってどういうことですか?」
「お前が、リカルドのフリをするんだ!」
「ええっ……!」

 そんな伯父の無茶な言いつけで、俺は身代わりとしてリカルドを演じることになった。仕方がないのだ、伯父とリカルドがいなかったら俺は今頃、どうなっていたか分からない。ここぞとばかりに恩を利用してくる伯父のことはどうかと思うが。

 ソフィ・ヴァレリーは、俺の大好きなリゼットをいじめる憎き相手。ちょうどいい。どんな面をしているのか見るだけのつもりだったが、リカルドのふりをして冷たく接してやる。

 俺たちの目的は、ソフィの方から『離婚したい』と言わせること。

 国王陛下の手前、こっちから離婚なんて絶対に切り出せないのだから。ソフィから離婚の申し出をしてくれれば全てが上手くおさまる。ソフィがいなくなった後、ゆっくりリカルドを探せばいい。どっちにしても、リカルドの職務の方は俺が代わりにやろうと思っていたし。

 結婚式をすっぽかした時点で、ソフィはきっと傷ついているだろう。追い打ちをかけてやる。寝室に行って、「お前を愛するつもりなどない」とでも言っておけば、しっぽを巻いて逃げ出すに違いない。とりあえずは厄介払いだ。

 こうして俺は、ソフィの部屋に向かった。
 ……屋敷の中で道に迷った。

 道に迷ってイライラして、部屋に入った瞬間にソフィに例の言葉を投げつけてやると息巻いて。やっとたどりついた寝室の扉を開けて、俺は言った。


「君のことを愛するつもりはない」