伯爵家の娘なのに使用人部屋に住み、使用人として働きながら何とか生活をする私。
 傍から見れば不幸な令嬢かもしれない。だけど、この生活を始めたからこそ気付くことができたこともたくさんある。今となってはここに来て良かったと思っている。

 かろうじて伯爵家の中に住まわせてもらっているから、お母様の診察にも立ち会えるし看病だってできる。

 ソフィに嫌がらせをされることも多かったけど、買い出しと称して屋敷の外に出て気分転換したり、街の人とお友達になったりして、今の生活はそれなりに楽しい。

 でも、ここでの生活ももう終わり。
 ロンベルクは私にとって、新しい故郷になってくれるかしら?

 次の日の朝、まだみんなが寝静まっている時間に、ひっそりとお母様の寝室に寄った。

 今にも目を開いて私に笑いかけてくれそうな、美しい寝顔のお母様。

(お母様、大丈夫よ。グレースがしっかりお母様の看病をしてくれる。私はロンベルク辺境伯に嫁ぐけれど、遠くからお母様のことをいつも思ってる)

 白くて長いお母様の指を撫でながら、私の目からは涙がこぼれ出ていた。