「おぼっちゃま、それではあの方は間違って嫁いで来た方だと?」
「いや、真相は分からん。国王陛下からの勅書はどうなってる?」
「国王陛下からの勅書ですか……確かにヴァレリー伯爵令嬢との婚姻、と記載されております」
「……なるほど。そういうことか」

 ヴァレリー伯爵令嬢は二人いる。妹のソフィと、そして社交界には姿を現さない姉のリゼットだ。伯爵は、姉の方をこちらに寄越したんだ。

「でもおぼっちゃま。これはもう仕方ありません。結婚式も済ませてしまいました。このまま奥様として使用人一同快くお迎えいたしましょう」
「いや、それは俺が耐えられない……」
「そうですか。上手くいくと思ったのですが」
「俺は一旦、今後のことを考える。ウォルターは彼女を丁重に扱って欲しい。それと、念のため他の使用人はできるだけ彼女に関わらないように配慮してくれるか。多分みんな、新しく来た女主人に嫌がらせする気満々でいると思う。俺からも説明しておく」

 ウォルターは丁重に返事をし、お辞儀をした。本来は俺に対してこんなに丁重に接する必要もないはずなのだが。