使用人の人数の少なさをどう思うか、ネリーにも聞いてみた。ネリー曰く、「いいえ、使用人室にはいっぱいいますよ」だそうだ。

「今リゼット様の横にあるそのお花だって、今朝使用人の方が持ってきましたよ」

 鏡の横に置かれた小さな花瓶の中に、まだ朝露に濡れたスミレが飾られていた。

「これをわざわざ持ってきてくれたのに、私にお顔も見せずに帰ったの?」
「はい。なんだかすごく怯えてて、入り口のところで私に花を押しつけて走って逃げました。私が使用人室にいってもみんな避けるんです。変ですよね」


 もしかして、もしかしたら。

 私は旦那様に嫌われ過ぎているがあまり、使用人たちからも避けられているのかもしれない! ネリーはその巻き添えを食ってるの?

 まだ何もしていないのに、ここまで嫌われるなんて……私って何か特殊な能力を持っている女なのではないだろうか。だって、女と見ればすぐに手を出すと有名な旦那様が、こと私だけに対しては「愛するつもりはない」と断言するくらいだから。

 とりあえずその特殊能力がなんなのか知りたい気持ちを抑え、朝食後に執事のウォルターに屋敷の中を案内してもらった。

 この屋敷は変な形をしている。上から見ると星型をしているらしい。廊下の角が直角ではなくて斜めに曲がる感じ。

 結果どうなるかと言うと……道に迷う。
 とにかく道に迷う。
 方向感覚が全くつかめない。

 昼食の準備ができたらお呼びしますからお部屋でお待ちくださいと言われたけど、自分の部屋にすら戻れない。困り果てた私は、太陽の向きでも見て方角を確かめようと、窓から外を眺めた。

 初めての場所で新しいこととの出会いが続くと、疲れも溜まるけどワクワクも大きい。

 愛してくれない旦那様、私を避ける使用人たち、迷路のようなお屋敷。

 これまでと違う、そんな環境だって、私の気持ち一つで存分に楽しめるはずだ。