「僕と君との結婚のこと調べたんだけどさ、どうやら新婦の名前が間違ってソフィ・ヴァレリーになってたらしいじゃないか。しかも結婚式の途中で神父様が倒れて、結婚自体が成立してなかったみたいなんだよね」

「…………は?」

「いやあ、残念だよ。結構リゼット嬢のことは気に入ってたんだけどなあ。結婚もしてないなら離婚もできないよね。僕もドルンで、また現地妻でも探さないと」


 ……どういうことですか?
 私、結婚していなかったの?

 唖然とする私とユーリ様は、口を開けたまま顔を見合わせた。リカルド様はそんな私たちを見てクスクスと笑う。


「なんか君たちって似てるよね。あ、それと、君の髪の件だけど」

「はあ……」

「シビルが昔ここで勤めていた時にも、ドルンスミレの毒入りのお茶を伯爵夫人の飲ませていたようだ。その頃はまだ毒が弱くて、伯爵夫人は意識を失うほどじゃなかったし、みんな悪阻で寝込んでると思い込んでたようだね」

「私を妊娠中に……母に毒入りのお茶を?!」

「そのドルンスミレの加工中に、おそらくアルヴィラの成分が混じりこんだんだと思うよ。それが伯爵夫人のお腹の中にいた君の髪に影響して、菫色の髪になったんじゃないかというのが僕の仮説。シビルは君が生まれた時に髪の色を見て、自分が毒を盛ったことがバレるんじゃないかと焦って逃げたんだろうな。まあ、まだ仮説にすぎないから、これからドルンの研究所で色々と調べてみるけど」


 シビルにはまだ余罪があったのか。妊娠中の女性に毒入りのお茶を飲ませるなんて……。たまたま無事だったから良かったものの、何かあれば私もこの世に生まれて来れなかったかもしれない。

 シビルがここまでしてお母様を狙って毒を盛り、伯爵夫人となりたかった理由は何なのか。ソフィが私を使用人室へ追いやって、わざわざ鍵を壊して怖い思いをさせようとしたのは何故なのか。
 その明確な理由はもう本人たちからは聞けないけれど、私が何となく思い描く理由がある。


「リカルド様。ドルンもロンベルクと同じ北方の地で、毎年冬の寒さと戦わなければいけない場所です。その上魔獣の被害まで及んでは、ドルン領民たちの暮らしは苦しくなる一方です」

「そうかもね」

「ソフィもシビルも、ドルンで苦しい生活を送ってきたんじゃないかと思います。リカルド様がドルンに行かれたら、二度とこのようなことが起こらないように領民の生活のことにも思いを馳せて頂きたいです。今度こそ逃げずに」