「ソフィ嬢、君たちがヴァレリー伯爵夫人に毒を盛ったことは調べがついている。少し大人しく黙って反省したらどうなんだ?」

「私は毒なんて知らない! 私が犯した罪なんて、お父様に黒髪であることを黙っていた程度の小さいことよ。それ以外には何にも悪いことしてない!」

「髪を染めていたのか?」

「そうよ、ドルンからアルヴィラという花を粉末に加工したお茶が毎週送られてくるの。私はただお母様に言われて、それを飲んで髪の色を変えていただけ。でもそのアルヴィラだって、この前魔獣が現れて取れなくなったから届かなくなったんだもの! 今の時点で私の罪はゼロ。毒なんて知らない。黒髪のままではお父様に会えないから、王都へは連れて行かないで!」


 俺が口にして翌朝銀髪になった、あのアルヴィラか。ソフィはアルヴィラでわざわざ自分の髪を銀髪に染めていたということか。

 主治医を名乗っていたドルンの染物屋の男。ドルンの染物屋なら、確かに原料としてアルヴィラを取り扱っているに違いない。あの男の家から、アルヴィラとドルンスミレをヴァレリー伯爵家に取り寄せていたのだろうか。
 ドルンでは魔獣の影響で森に入ることが禁止されてアルヴィラが手に入らなくなり、ソフィの髪を染めることができなくなったということだろう。


「私は悪くない! リカルド・シャゼル様の正式な妻なんだから、ロンベルクに戻してよ! リカルド様を出しなさいよ、この貧乏男!!」


 リゼットがロンベルクに来る前は、毎日こんなにうるさい妹の相手をしていたのかと思うとゾッとした。このうるさい口で、どれだけリゼットに罵声を浴びせたんだろう。その辺にある石でも拾って、ソフィの口に突っ込んでおきたい気分だ。


 数日後、王都についた時には、俺の耳は限界を迎えていた。

 国王陛下からソフィ・ヴァレリーを連行するように指示を受けている。ウォルターを通じてリカルドと連絡を取り、今日の謁見の場にリカルドも出席することは確認済みだ。

 王城内に入って緊張したのか急に静かになったソフィを連れ、俺たちは謁見の間に向かって長い廊下を進んだ。