「まあまあとにかく、ユーリが本来手にすべきものを手にできるようにするのが、僕の失踪の目的。辺境伯の地位をユーリに……って思っていたんだけど、ユーリが欲しいのものがもう一つあったんだよね」
「もう一つ?」
「それが君だよ。だから、ウォルターが君とユーリの間が上手くいくように色々画策してたでしょ?」


 今、僕の目の前にいるリゼット嬢は、どうして首をかしげているんだろう。

 あの奥手で真面目なユーリが、王都で見かけただけの話したこともない女性に惚れたんだぞ? アイツが一晩中机に向かって頭を抱えながら、恥ずかしい手紙まで書いたんだぞ?
 今まで何もかも諦めてきたユーリが、君のことだけは諦められずにロンベルクに留めていたことをどう思ってるんだ?

 僕の話が理解できないといった様子のリゼットは、暗い表情のままうつむいた。


「……確かにユーリ様からお手紙を頂いたことがありました。でも今のユーリ様は、カレン様のことをお好きなんです」

(…………は?)

「カレン様がハッキリ仰ったんです。ユーリ様が欲しいのは私ではなく、カレン様なんじゃないでしょうか。私に優しくしてくれたのはあくまでも、身代わりじゃないかと疑われないための演技で」


 ごめん、ちょっと吹き出してもいいかな?
 恋愛初心者だからと言って、いくらなんでも間抜けすぎないか? ウォルターがあれだけお膳立てしてあげたのに、ユーリったら完全に大失敗してるよ。


「君は全然分かってないんだなぁ。まあいいや。ユーリのことは置いといて、まずはあっちを片付けよう」
「あっちとは?」
「毒を盛った犯人たちを、国王陛下にきちんと裁いてもらわないとね。ウォルターに連絡してソフィを王都に連れ戻すように言ってあるんだ」


 僕の目の前の女の子は、真ん丸の目をくるくる動かしながら必死で理解しようと頑張っている。ウォルターが実は僕と繋がってたなんて知らなかったんだろうから、驚くのも当然だ。

 真っすぐで素直で、目の前にあることを全て受け止めようとする誠実な子だ。ユーリが彼女を好きになるのも分かる気がした。