「君、分かってないなあ。辺境伯にふさわしいのは僕じゃなくてユーリ。仕事だって完璧だし、こうして勇敢に魔獣に挑みにいくじゃん。ユーリ最高だと思わない?」

「…………その部分だけは意見が合いますね」

「僕が国王陛下に泣きついたところで、ユーリの評価は簡単には変わらない。身分もあるしね。でも、僕が失踪してる間にユーリが全部取り仕切ってたことが分かったら、どう思う? やっぱり重要なのは『実績』だよねえ」


 飄々としたリカルド様の態度。彼の本当の目的は何なのか、私にはやはり見えて来ない。


「大丈夫大丈夫! ユーリがちゃんと身代わりを果たせたら、僕の代わりに辺境伯に任命してもらえるよう、国王陛下と交換条件にしてるんだ!」

「陛下と、交換条件ですか?!」

「そう! 国王陛下って、僕の伯父さんなんだよ。僕の母が現王妃様の妹だから。本当はユーリの方から『辺境伯は俺がやる!』って言って欲しいんだけどね」

「……私が聞いていた話と違います。国王陛下は、リカルド様自身が辺境伯を務めることを望まれていたのでは? そうでなければシャゼル家は存続の危機だと」

「だからこうして直談判に来たんじゃないか。僕はシャゼル家がなくなったって別に構わないけど、ユーリのためにはそういうわけにはいかないからね。国王陛下だって、ロンベルクがちゃんと守られて、縁戚である僕が真っ当に生きてればそれでいいんだよ。僕が辺境伯である必要はない。まあ、僕を辺境伯から外してユーリを任命するためには、それらしい対外的な口実が必要だけどね」


 ひどい。ユーリ様だってウォルターだって使用人の皆さんだって、もちろん私だって、みんなリカルド様の失踪に振り回されたのだ。こうして皆の知らないところで国王陛下と取り引きして、悪びれもせずに王都にいるなんて。
 ユーリ様とカレン様が、ずっとこの人の尻拭いをしてきたのだと思うとゾッとする。


「ユーリ様は、シャゼル家の取り潰しを避けるために身代わりを買って出たんです! リカルド様が取り潰しも構わないと考えているとか、こうして辺境伯を譲る口実づくりのために国王陛下と交渉されているなんて知ったら……。ユーリ様のお気持ちは一体どうなるのですか?!」


 怒りに任せてまくしたてた私に、リカルド様は口を尖らせてボソッと呟く。


「……ユーリの気持ちだって? その言葉はそっくりそのまま君にお返しするけど?」
「私にそのまま言葉を返す……? 私がユーリ様の気持ちを分かっていないということですか?」
「でしょ? だからここにいるんだよね? まさか僕と離婚して一人で王都に戻ろうって魂胆?」
「……うっ」


 私が夫だと思っていた人はリカルド様ではなく、身代わりのユーリ様だった。魔獣出没のせいで、確かに最後はきちんとお話はできなかったけど、私はちゃんとユーリ様の気持ちは確認した。

 ユーリ様は、私に『リカルド様の妻になって欲しい』と言った。

 それに、私は立ち聞きしてしまった。ユーリ様はカレン様のことがお好きだったんだと。

 勢いに任せてとは言え、私はユーリ様への気持ちを伝えたのに、彼は私を拒んだ。これ以上、私に何ができたの?