話の流れで世間話へと向かい、今年から(リエラ)が入学した事を聞いた。そういえば今まで彼女を見た覚えがないとクライドが口にすれば、レイモンドは勝手に熱く語り出したのだった。

「リエラ嬢は授業をサボっているのかい?」
「いえ、家庭教師から成績は保証されておりますが……女性の友人以外の社交には出席しないのです」
「アロット伯爵も彼女に社交に出て欲しいのかな」
「両親は妹に甘いのです!」
 くわっと目を見開き身を乗り出すレイモンドにアリサが小声でウッザ、と書類に呟くのを聞こえない振りでやり過ごす。

(……確かに随分な熱血漢のようだ)
 若干引いているこちらに気付かないまま、レイモンドはその温度のまま話し続ける。
「全く……! こんな事では、十六歳のデビュタントも私がエスコートを頼まれるのでしょう」
 額に手を添え溜息を吐くその言葉にシェイドはぴくりと反応した。

(デビュタント……)

 リエラのデビュタントは来年だ。
 その時までに生徒会で実績を積んで、優秀な成績で学業を修めれば……そうして正式に彼女のエスコートを申し込めば──許されないだろうか。

 そんな思いが胸に湧き上がれば、あとは期待が膨らむばかりだった。だからレイモンドの話が頭に入ってこなくなった辺りで、アリサが残念な眼差しを向けてくる事にも気付かなかった。

 ……結果は勿論惨敗。

『君はもう二度と娘と関わらないように伝えた筈ですが?』

 という内容の丁寧な文章が届き、伯爵の根深い怒りを垣間見た。
 生徒会室で両手と膝をつき打ちひしがれるシェイドの横で、クライドとアリサが頬に手を当てて溜息を吐く。