林太郎は世間一般でいう、いわゆる『オネエ』さんである。けれど今の問題はそこではなく。

 スマホを耳に当てて、誰かと電話中だった。



 いいのかな、と思いつつも、結は通話中の林太郎のあとについて部屋に上がった。エアコンの効いた室内は、ひとり暮らしには広めの1Kだ。カーテンは薄いラベンダー。家具はベッドと小さいチェスト、テレビ台、ローテーブルで、白の木製で統一されている。テレビ台の上には小さなテレビ。床はチャコールグレーの木目。すっきりしていてシンプルで、綺麗だ。

(何より築浅のしっかりマンションだし。うちのボロアパートとは大違い。引っ越したい)

 引っ越しを検討していた結が心に追いうちをかけられていると、林太郎はキッチンのほうへ出ていった。リビングとキッチンはドアで仕切られているタイプだ。「そんなに心配しないで大丈夫だってば」とか、「もう治ったから大丈夫よ」などと聞こえてくる。声がくだけているから、誰だろう、と気になってしまう。

 本当は泣きそうだったから、ドアがあいた瞬間、泣いてしまうかと思った。